あなたが幸せになるための朝(成)

あなたが幸せになるための朝(成)

彼女の傷①

恐らく私は、目を離したら死ぬと思われている。 外界に繋がる扉や危険物の戸棚には錠前が備えられ、刃物や縄といった類は徹底的に隠されている。私の刀も見当たらない。幼児か徘徊人間を相手にする感覚の軟禁だ。 ...
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怪物は覚悟を決める

「そこのお前、琥珀に惚れてるとかいうゲテモノ食いだったりする?」 無数の秋波に粘着されながら着いた娼館で、初対面の男に誹謗中傷を浴びせられた。 彼女の師匠を名乗った男は、娼館の人間に翡翠という名を出し...
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彼女はすべて暴露する

「翡翠《ひすい》殿。不躾《ぶしつけ》なお願いを聞き届けていただき誠に感謝致します」「真っ先に私を頼ってくれたんだろう、だから許そう」 珍《めずら》かで豊かな翠玉の髪と怜悧《れいり》な美貌から名のついた...
あなたが幸せになるための朝(成)

怪物の悪い予感

少しずつ、彼女の気持ちを教えて貰えることが増えた。 初めは時おり催促して、徐々にぽつりと零れる程度。口数が増えればこちらから話題を広げる切っ掛けも、余分なお喋りをして貰える機会も増やしていけた。「マキ...
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悪意も情緒もない彼女

「道具」として認識して貰う、とは決めたものの。 彼が関心を示す事柄など、艶事としか分からなかったのである。 穴があるとはいえ、胸も尻も無い体型だ。男装はしやすくて有難いことだが本件に重要なのは女性的な...
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情緒がいそがしい怪物

俺は今まで何を見ていた。 彼女が目を覚ますまで、その指先に触れることすら出来なかった。生きているか不安になり、微かな呼吸音に耳を澄まして安堵することを繰返した。 相良から歌を奪った一因は、虐待の傍観者...
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彼女は無言で画策する

気配が無いとは思っていたが、住居侵入に気付かないとまでは予想外だった。 深く眠ってしまった私も失態だけれど、ここまで気付けないとなれば床からにょっきり生えてきたのかと疑う。他人《ひと》ん家で勝手に発生...
あなたが幸せになるための朝(成)

怪物は自覚する

獏《ばく》の問い掛けが思い出された。『あの子に惚れてんのよね?』 惚れる、とは。 当然知っている。恋慕という感情だ。人間が内包するうち一二を争う不定形。 時として喜びに転じ、怒りに転じ、嫉妬に転じ、狂...
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縮こまる怪物②

少女の言う返却物は「恩返し」の意図だった。――昔、少女に与えた知識に見返りの「出世払い」を求めるかもしれないと。匂わせたのは確かに俺だ。 押し黙るうち、少女が切り出した。「マキさんは沢山の知識を与えて...
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縮こまる怪物①

少女に対する俺の情動はあまりに不明瞭だ。 不死者の同類を援助または鎮圧しながら。人間の女を抱き、首に牙を立て『食事』する傍ら、俺が変質している可能性も視野に入れ検討を続けていた。負傷を気にしてしまう理...