落日、硝子が割れる

落日、硝子が割れる

エピローグ

彼は棗のもとに、彼の昔の名を置いていった。 それが棗への心残りであるのだと。そんな話はあらかじめ聞いていた。 雨屋の残した段ボール箱の中には、両手で抱えるほどの荷物が一つだけ。クッション材が巻き付けら...
落日、硝子が割れる

2-12 終幕

訓練棟三階から、管理棟へ繋がる渡り廊下を抜ける。 階段を四階へ登れば、支部長室はその突き当たりだ。「さすが、仕事が早いね」 応接用スペースや飾り棚、本棚が複数備えられたゆとりある空間に、暴動の手際を褒...
落日、硝子が割れる

2-11-3 反旗・下

教室の席から。体育館の壁にもたれて。 望んで作った心地よい日陰で、その軽薄は、どうしようもなく目についた。いつも頭の足りない馬鹿をして怒られて、笑われて、道化として輪の中に溶ける賑やかし。 地味ながら...
落日、硝子が割れる

閑話:協力者

付着した血に触れないよう、使い捨ての手袋とエプロン、マスクを外して袋に詰める。 医療カートを引っ張って処置室を出たら、難しい顔で黙ったままの棗がいた。「まだ居たんですか。雨屋しばらく起きませんよ」 裏...
落日、硝子が割れる

2-11-2 反旗・中

薬と血の匂いがする。 背負った身体には所々、硬質な感触が混ざっている。右腕を固められ、それ以外も添え木だらけの怪我人をそのまま背負うのも躊躇われたが、担架を扱う人手もない。 とはいえ不思議と痛がる様子...
落日、硝子が割れる

2-11-1 反旗・上

異類対策部北支部全棟で、有事を示す警告灯が煌々としていた。 システムトラブルに付随するセキュリティの誤作動――そんな理由から駐留の隊員達は、訓練エリアや各隊室で一時的な閉じ込めに遭っている。大部分の隊...
落日、硝子が割れる

2-10 賭けの結果

棗の記憶の限り、決して約束を破らなかった男。 冗談半分の口約束さえ真に受ける愚直で、喫茶店主にこっぴどく絞られることすら日常だった。分け隔てなく、誰に対しても。「来ると思ってたよ。大馬鹿野郎」――来な...
落日、硝子が割れる

閑話:死にたがりの独白

ぼんやりと、二十歳より早く死にたいと考えながら生きていた。 夭折《ようせつ》の表現者に憧れたのかと嘲笑された。生きられない人がいるのに、不謹慎だとなじられた。 素直に「そういう人たちがいるのか」と思っ...
落日、硝子が割れる

2-9 黒幕

北支部研究棟、白幡研究室前。女子高校生の制服姿はよく目立つ。 紫乃の手には一枚のプリントが握られている。保護者宛の固い文面は、目指す進路の定まらない少数派のみに通達される紙切れだ。 両親への提出が憚《...
落日、硝子が割れる

2-8 中央動乱

中央地区歓楽街、午前某所。 スナックで作業中の店員が殺された。店に訪れていた業者のひとりが急性鬼化変異をきたし暴走、凶行に及んだためだった。 初めの一件を皮切りに、歓楽街一帯の鬼化探知機ほとんどがアラ...