与太文

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情報屋さんと良き隣人

裏街は『食』に縁が薄い。 食事の機会の意味でも、食文化の意味でも。人肉食は裏街のみで流通のある例外だが一般的な『食』というより悪食嗜好の煮凝《にこご》りに近いため除外。 そもそも鬼というのが、人間に比...
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情報屋さんと悪事の顛末てんまつ

鬼の犯行を偽装したと思しき、人間による暴行事件。 犯人捕縛の一報を受けた情報屋の少年は、ねこと連れ立って自警団本部(廃墟)に到着した。 部屋で縛られ転がされている男は、パーティーグッズの付けツノを外す...
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情報屋さんのアルバイト

「次の人、どうぞー」 裏街では比較的上等な廃墟の一フロアに、少年の声が響く。 廊下で列をなすガタイのいい鬼がまた一人、少年と飼い猫の待つ小部屋の中に通された。 裏街の鬼は就労者が少なくない(勤務態度不...
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情報屋さんとお医者さん

北の裏街には「狭間通り」という呼称がある。鬼が蔓延《はびこ》り社会を形成《つく》り、軽重犯罪をはぐくむ温床として発展が認められた不名誉の証。『やめときなって、ご主人』「だってあの人、きちんとしてそうに...
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ポッキー(雨屋、棗)

「ん」 彼は甘いものが好きだと、私は知っている。「大学で貢がれた」「なるほど。大学生くらいのお年であれば……『ポッキーの日』と仰る、あれでしょうか?」「そ。それ」 鼻先に触れていた紙の箱が、すいと離れ...
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情報屋さんの相棒には秘密がある

「人肉を好んで狩りに行く鬼?」「はい。そういう鬼さんって居ますか」「いないいないいない、そんなん居たら早急に首輪つけないと職務怠慢でこっちが死ぬ」「いつもありがとうございます」 裏街の治安維持に与する...
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傍観する情報屋さん

錆びた動物病院の看板かたむくコンクリートの屋上階。小柄な少年がへりに腰掛け、ぷらんと足を宙に投げ出す。汚れたスニーカーが夜を蹴飛ばした。 少年は調査依頼を請ける個人業者だ。 情報屋と呼ばれる界隈の端く...
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バレンタイン+氷崎誕(後編)

2月14日 18:03 高校 生徒玄関「受験生ってこんな遅くまで授業あんの? やべーな」「たまたま先生に捕まっただけだよ。……もしかして、ずっと待ってたの?」 生徒玄関で待ちぼうけを食っていた風見が、...
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バレンタイン+氷崎誕(前編)

2月13日 16:00 北地区往来「きょう、すばるの誕生日だ。十三日……」 風見の口からそのような呻きが漏れたのは、二月十三日午後四時。高校からの帰路、いつも氷崎と別れていた交差点から数歩進んだあとだ...