短編

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縁遠い(氷崎、風見)

高校のクラス会、らしかった。 連絡先はみんな切っていたから安心していたのに、いちばん警戒しなきゃならない人間はすぐ傍にいた。主催からの招集を僕の分まで安請け合いして、当日いきなり行先も言わず連れ出した...
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人魚の棲む水底(紫乃、和泉)

毎週土曜の夜。喫茶店で、ピアノの生演奏が聴ける。 紫乃から知らされたイベントに、和泉が目を見張る。「あのピアノ、弾けるの……!?」「らしいよ。店長さん、気が向いたら調律してるって言ってた」 諸々の遊び...
短編

おもし(雨屋、棗)

せっかちな呼び鈴の鳴らし方は、友人の癖だ。 散らかった部屋もそのままに鍵を開ける。同じくらいの目線、予想通りの青い瞳が雨屋を射抜いて、用件を粗雑に放る。「鍋」 真新しい大きな箱――を抱える棗の両腕に、...
短編

かなわないな(蒼、音羽)

「なぁ、相棒。良い夜だ。雪でも愛でに行かないか?」 ――そういうの、外気温を見てから言ってほしい。 北国。深夜。晴天で積雪は山盛り。 ホテルの部屋は暖かいけれど、暖房が止まる気配は無い。たぶん、温めた...
短編

一飯の義理(冬部、棗)

「べ、……なんつった?」「エッグベネディクト」 目の前の幼馴染がエプロンを締めている理由が分からない。 唐突に棗《なつめ》の自宅へ呼び出された冬部《ふゆべ》は、到着早々に証人を頼まれた。 曰く。これか...
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しろくてまるい(棗、雨屋)

秋の夜長、中秋の名月。そのように銘打たれ月夜は、いささか期待できそうにない。 数日にわたり天気予報を覆す雨が、辺りを灰色におおっている。さらさらとした薄靄に似た細い雨粒。梅雨よりも息苦しさを感じないの...
短編

「お帰りなさい」(和泉、雨屋)

雲は薄く、風に流されたように、ざらついた質感を残して広がっていた。よく冷えたアイスクリームを掬いとった痕の、細かな毛羽立ちに似ていた。 肌が焼けそうなほどではないが、日差しからの熱を逃がしてくれる風は...
与太文

情報屋さんと良き隣人

裏街は『食』に縁が薄い。 食事の機会の意味でも、食文化の意味でも。人肉食は裏街のみで流通のある例外だが一般的な『食』というより悪食嗜好の煮凝《にこご》りに近いため除外。 そもそも鬼というのが、人間に比...
与太文

情報屋さんと悪事の顛末てんまつ

鬼の犯行を偽装したと思しき、人間による暴行事件。 犯人捕縛の一報を受けた情報屋の少年は、ねこと連れ立って自警団本部(廃墟)に到着した。 部屋で縛られ転がされている男は、パーティーグッズの付けツノを外す...
与太文

情報屋さんのアルバイト

「次の人、どうぞー」 裏街では比較的上等な廃墟の一フロアに、少年の声が響く。 廊下で列をなすガタイのいい鬼がまた一人、少年と飼い猫の待つ小部屋の中に通された。 裏街の鬼は就労者が少なくない(勤務態度不...