あなたが幸せになるための朝(成)

あなたが幸せになるための朝(成)

終話:彼女の物語

瞼《まぶた》の裏がひどく明るい。 死後の世界はまばゆいのだなと開いた眼に、知らない天井が映った。 身を起こす。確りした寝台に寝間着、屋根と壁のある家。他人の気配と料理の香り。 どうも話が違っている。最...
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彼の独白②

日陰から日向へ。流される場所をすげ替えても、特にやる事は変わりません。 何か行動を起こすのなら、誰かの利益になる方がよろしい。 望みが無いから「ある」ひとを探した。許しを貰い、私の時間を使わせていただ...
あなたが幸せになるための朝(成)

彼の独白①

人というのは不思議なもので、見た目が変われば中身が変わる。 自己の認識が別人になってしまえば、遥か遠くの「私」の記憶は見知らぬ他人のことでした。自分には縁のない人生を歩んだ愚か者。既に死体となった残骸...
あなたが幸せになるための朝(成)

大人たちの相談ごと

佐倉《さくら》――もとい不死者たる獏の手で、和泉の記憶の封印が終了した。 作業終了を待っていた多々良が、微かに声を尖らせる。「サクラさん。先程の契約はいただけない」「どうして? 欲しがってたじゃない、...
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少女は棄てた②

「……琥珀くん、なのか?」 覚えのある声色の上司と、女性装がよく似合う男性が立っていた。 かつてタタラ様と呼ばれていた便利屋の頭目から、記憶を持ち越した生まれ直しが起こりうることを聞いた。彼もその一人...
あなたが幸せになるための朝(成)

少女は棄てた①

私達は棄児《すてご》だった。男女の双子に生まれつき、ひと揃えに捨てられた。 鬱蒼と茂る木々に囲まれた山中で、私は「相良」と「琥珀」を、思い出した。 やっと立てるかという足を引きずり、兄の手を引いて人の...
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怪物は最後の賭けをした

俺は血を飲まなくなった。一番美味いものを知ってしまったら、他の血を飲む意欲も湧かず――彼女を失う事で吸血衝動が鎮静するなんて、馬鹿みたいだった。 吸血以外の代替法や摂食での呪力補給に切りかえるうち、飢...
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怪物の傷

「……死人との縁は切れないよ。今さら縁切りを頼もうったって、無茶な相談だ」 雪に埋もれ朽ちた社《やしろ》から、苦笑するみたいな声がした。 生きていたのかと驚く。しかしながら、土地神に信仰を捧げる唯一の...
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怪物は気づいた

――相良が致命傷を負った。 生き餌の契約から感じ取れた事実を信じたくなかった。契約者に座標を定め転移した先が劇場で、見なくても理由を悟った。 相良は兄を庇った。噎《む》せかえるほど満ちる彼女の血の匂い...
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彼女の毒

マキさんは帰ってこなかった。 彼に起きた異変も、彼が何を考えていたかも最後まで分からなかったし、私は分からないなりに誠意をもって受け答えた。嘘は無いから悔いもない。彼がどう受け取り、何を思うかまでは私...