あなたが幸せになるための朝(幼)

あなたが幸せになるための朝(幼)

閑話:名前④

ヨウと新入りの師弟関係は正式に締結された。構成員の面々は安堵し、タタラは三割増でにこにこした。新入りは便利屋の雑務や運営管理業務を手伝いながら快復を待ち、サクによる武術の基礎修練を受け始めた。 入院治...
あなたが幸せになるための朝(幼)

閑話:名前③

ある日「弟子」は死にかけの声で、兎を一匹狩ったと言った。 熊をやり過ごした。食べられる草を見つけた。実は毒草だったが大事には至らなかった。毒の訓練が役に立った。以前学んだ、飲み水の探し方のコツを掴めた...
あなたが幸せになるための朝(幼)

閑話:名前②

「てめぇまたやりやがったな!!」 どすの利いた怒鳴り声で便利屋本部が揺れる。 痛む耳を押さえながら辟易《へきえき》した顔のヨウに、生来の強面をこれでもかと凄ませる大男が詰め寄った。 人相の悪い大男――...
あなたが幸せになるための朝(幼)

閑話:名前①

「無理。怠い。ほか当たって」 タタラの提案はものの数秒で却下される。 便利屋のちいさな談話室には、組織の長たる男の笑いがこだましていた。 北の便利屋に新入りの孤児が転がり込んで数週間が経つ。一通りの検...
あなたが幸せになるための朝(幼)

不定形②

少女を引き取った貴族名家が取り潰された。 跡取りを含めた一族は離散し、好奇の視線から逃げるように行方を眩ませた。人の噂も次第に風化し立ち消えた。 少女の噂は聞こえなかった。とうに死んだかもしれない。貧...
あなたが幸せになるための朝(幼)

不定形①

鬼や呪具、その他さまざま化生の類に魔物の伝承。 未だ多くが神秘と畏《おそ》れられ、各地に退治屋の看板を引っ提げた暴力稼業が多数乱立する時代――北に居を構えるいち退治屋、広義に便利屋と呼ばれる人材仲介組...
あなたが幸せになるための朝(幼)

斯くして少女は拾われた②

「やけにさっぱりしてんね」 私の姿を上から下まで見て三秒、黒髪の彼はそう言った。「手段たって、君にあるのはそのお人形さんみたいなツラしかないからね。演技で喘《あえ》いで出すもん出させて消耗させるしかな...
あなたが幸せになるための朝(幼)

斯くして少女は拾われた①

季節は何度か回ったらしい。 その年は、桜の開花が早かったそうだ。暦《こよみ》が分かるものは屋根裏《ここ》に無いから、特段の感慨も感想もない。私が覚えているのは、寝台の上から見える窓の外の景色くらい。 ...
あなたが幸せになるための朝(幼)

不識②

「兄がどうしているか、わかりますか」 以前、少女に聞かれたことがある。 よく晴れた星空に背を向け、携えた金属の水筒を窓枠に置いて「分かるが、どうする」と答えた。催促に従い、俺が知る限りのことを説明した...
あなたが幸せになるための朝(幼)

不識①

詮索しない姿勢を褒めた女は、音の失せた雪の晩、洗いざらいの真実を俺に託した。 女の過去と、双子の男親の話だ。「よくある話だよ。その昔、僕の身体を金で買いたいという無粋な貴族がいた。俺は当然断ったんだが...